脳卒中再生医療

脳出血

Cerebral hemorrhage

突然頭痛がして意識がもうろうとしたり、腕や足が麻痺して倒れてしまったりする「脳卒中」は、脳の血管に異常が起きる3つの病気の総称です。
血管が破綻し出血するのが「脳出血」と「くも膜下出血」。血管が詰まってしまい、血流が足りなくなるのが「脳梗塞」です。脳出血は全脳卒中のうち約20%を占める病態で、死亡率は40-50%とされています。これは、くも膜下出血と近い数値で、脳梗塞よりも高いと考えられています。
このページでは脳出血について解説します。

脳出血とは

脳出血は、脳の細い血管が何らかの原因で破綻し、出血してしまうことをいいます。
血管から流れ出た血液の塊が、周囲の脳組織を圧迫して障害することでさまざまな症状を引き起こします。症状は出血する場所と、出血する量により異なります。

脳出血とくも膜下出血の違い

脳出血は、脳内の比較的細い血管から出血する疾患のため、脳内出血とも呼称されます。
一方、くも膜下出血は、脳を覆っている膜の一つである「くも膜」と「軟膜」の間で出血することによって起こる疾患です。

脳出血の症状

脳はさまざまな機能を担うため、障害部位により多彩な症状が見られます。多くの場合頭痛を感じ、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。脳出血の症状は出血を起こした直後から出現するため、これらの症状が「突然に」起こるというポイントがあります。症状は刻一刻と変化し、悪化する可能性もあるために迅速な対処が必要です。

脳出血の症状

脳出血を起こす部位には下記の部位が知られています。

  • 被殻(ひかく)
  • 視床(ししょう)
  • 脳幹(橋)(のうかん、きょう)
  • 小脳
  • 皮質下

ひかくしゅっけつ

被殻出血

脳出血の40-50%は被殻出血です。
被殻は大脳の中央部に左右1対あるもので、レンズ核線条体動脈と呼ばれる非常に細い血管から出血します。出血量が多くなると周囲の脳への圧迫と、頭蓋骨内部の圧が上がることで、意識が悪化します。
周囲に拡大すると、放射冠・内包と呼ばれる運動の神経が走行する部分に損傷が起こるために、麻痺が起こります。左側の出血の場合、言語の障害が起こることがあります。

被殻出血

ししょうしゅっけつ

視床出血

脳出血の30%程度は視床出血です。
視床穿通動脈・視床膝状体動脈と呼ばれる動脈が出血源となります。
視床は多くの感覚を中継する中枢であるために、視床出血では感覚障害が主な症状となります。
出血量が多くなると水頭症や麻痺の原因となります。

視床出血

のうかん(きょう)しゅっけつ

脳幹(橋)出血

脳出血全体の10%程度が脳幹出血です。
脳幹は脳の深部にある部分で、橋と呼ばれる部位のやや背側で出血します。
脳幹は生命や意識を維持するための機能を担っており、大きな出血では発症直後から重症となり、すでに意識障害や呼吸の障害がでている場合には早期に亡くなってしまう場合が多くなります。

脳幹(橋)出血

しょうのうしゅっけつ

小脳出血

小脳出血は、脳出血全体の10%程度です。
小脳の内側にある歯状核と呼ばれる部分から出血することが多いとされています。小脳は運動するときの、筋肉の協調運動や姿勢制御を担っています。
小脳出血を起こすと、大きなものでは意識障害や呼吸障害、小さなものでは頭痛やめまい、悪心、起立の障害などが起こります。

小脳出血

ひしつかしゅっけつ

皮質下出血

脳の表面を覆う大脳皮質の下で起こる脳出血で、全体の10%程度です。けいれんや麻痺、呂律がまわらない、視野の欠損などの症状が起こります。

皮質下出血

脳出血の再発を予防をするために原因・危険因子を知ろう

脳出血の原因として、一番多いのは高血圧です。
収縮期血圧(血圧の上の値)が10mmHg上昇する毎に、発症リスクが40%上昇することが分かっています。日本では、脳出血が脳卒中全体に占める割合が、欧米と比較して高い数値となっています。漬け物や味噌汁など、日本元来の塩分の多い食事がその原因と考えられています。

食事の欧米化や、高血圧治療の進歩により脳出血の発症頻度は1950-60年代をピークに減少傾向にあります。しかし、近年その数値は横ばいとなり減少傾向が弱まっています。その原因の一つが、高齢化の影響です。次のグラフをご覧ください。

脳出血の症状

脳出血の発症頻度を年齢、性別で見たグラフです。
発症のピークは60-70歳代であり、80歳以上の年代でも高い頻度で発症していることが分かります。
以前は亡くなってしまっていたような年代で発症することが多くなったため、全体の発症数がその分増えているということが読み取れます。

高齢で脳出血を発症するのには、アミロイドアンギオパチーという原因があります。
これは、年齢に伴って発生する異常なタンパク質が血管に沈着することで血管が弱くなり、破綻してしまう状態です。
また、高齢の方では心臓などの治療のために、血がサラサラになる薬を飲んでいることが多く、これも脳出血の原因となり得ます。
高齢での発症が目立つ一方で、グラフからは20-40歳代と若い年代でも発症することが分かります。若くして脳出血を起こす方は、先天的な脳血管の奇形(脳動静脈奇形)や、血管の病気(もやもや病など)が隠れており、それが原因となることが多いです。

日本脳卒中データバンク報告書(2018年)より引用。

脳出血の治療法

血圧のコントロール

病院へ搬送され、脳出血と診断された後の治療は、出血がそれ以上多くならないように血圧をコントロールする治療が中心となります。従来、血の塊によって圧迫された脳は、その時点で血流が低下しているため、血圧は無理に下げない方がよいと考えられていました。
しかし2008年から2016年にかけて実施された大規模な臨床試験で、収縮期血圧を180以下にコントロールした群と、140以下にコントロールした群では、140以下にした場合の方が生命・機能予後改善につながるということがわかり、現在では140以下にコントロールすることが推奨されています。
最近では130以下が良いのではないか、という意見がありそれを検証するための臨床試験が行われています。
ただし、血圧の下げすぎは腎臓に負担がかかる可能性があるなど、全身的・専門的に治療を管理する必要があり、脳卒中専門医により治療が行われることが望ましいとされています。

手術

血圧のコントロールや全身治療を行っても状態が改善せず、逆に悪化する場合には手術が検討されます。
手術では頭の骨を外して中の圧を下げようとする方法や、血のかたまりを直接取り除くような方法があります。手術が実際に適応されるかどうかの判断は、ケースバイケースであり、その都度専門医による判断が下されます。

出血量が非常に少ない場合や、症状が軽微である場合、逆に症状が非常に重く救命が困難と思われる場合には手術は実施されません。一方小脳出血による症状が徐々に進行するケースや、被殻出血の一部(中等度意識障害)などでは手術による有用性が示されており、適応されるケースが多くなります。
また、脳動静脈奇形やもやもや病などによる脳出血では、若年者での発症が多く、入院時重症でも術後の改善が期待できるために、より積極的に手術を考慮してもよいという意見があります。

脳出血の予防法

脳出血の最大の原因は高血圧ですから、高血圧の治療が脳出血の予防として最も重要です。
血圧が140/90を超すと、発症頻度はぐっと高まります。高血圧は脳出血だけではなく、脳梗塞や心筋梗塞、心不全や大動脈瘤などさまざまな疾患の原因となります。

高血圧となる原因には、個人差があります。
腎臓の血管の異常や、ホルモンの異常により起こる高血圧、遺伝要因が原因となる高血圧などでは、対応した治療が必要となります。しかしながら、頻度として多く、我々が日頃から気をつけたいのが、生活習慣による影響です。食塩やアルコールの摂取、肥満や運動不足などが高血圧の原因となります。
30-40歳代といった若い年代から血圧の数値を意識し、生活習慣を改善することが将来的な脳出血の発症を予防するために重要です。

生活習慣を改善しても血圧の改善が見られない場合、降圧薬による治療が開始されます。血圧の治療は生涯に渡り必要となることも多く、治療を継続することが重要となります。

脳出血の後遺症

脳出血を初めとした脳卒中は、発症早期の治療を終え一命をとりとめたとしても、脳の障害による後遺症が残ることが多いです。
脳出血の後遺症にはさまざまな程度があり、最も重症である場合には、意識や呼吸などの生命を維持する基本の機能すら障害されている場合があります。
何とか退院したけど人工呼吸器を外すことができない、栄養は点滴や胃のチューブから注入、といった重い介護生活となる可能性もあります。
そこまでいかなくとも、次のような後遺症が残る可能性があります。

運動麻痺

左右どちらかの側の腕、足に運動の障害が残ることが多く、これを片麻痺といいます。片麻痺の多くは痙性麻痺という形をとり、腕や足は突っ張った形で固定されてしまい、動かすことができなくなってしまいます。

片麻痺(運動障害)

左右どちらかの身体に起こることが多いため片麻痺と呼ばれています。運動神経が脳の奥の脳幹というところで左右に交差しているため脳の障害の反対側に症状が出ます。手足の先の痺れや細かな動きの障害が起こる軽度なものや、手足が動かなくなる重度なものまで脳の障害を受けた部位や範囲によってさまざまです。

痺れ・痛み・違和感・感覚がにぶる(感覚障害)

片麻痺と同様に左右どちらかに現れやすい特徴があります。麻痺した側の手足が痺れたり、冷たい・熱いといった感覚や触った感触などが分からない、鈍くしか感じないだどの症状がみられます。また逆に、痛みなどを強く感じる(感覚過敏)こともあります。

嚥下障害(えんげしょうがい)

運動障害や感覚障害により口や舌などを上手く動かせず、食べ物や飲み物を上手に飲み込めなくなる後遺症です。喉に詰まりやすくなり誤って気管に入り込むことを誤嚥といいます。また、本人も気づかないうちに飲食物が気管へと流れ込み肺に炎症を起こしてしまうことを誤嚥性肺炎といいます。誤嚥性肺炎まで起こしてしまうと、重篤な状態になってしまうケースもあります。

高次機能障害

脳の前方部分に損傷を受けた場合、思考や記憶など学習に関わる障害が起こります。そうなると、失認や失行などの症状がでます。失認とは、物を認識できなくなること、失行とは衣服の着方が分からなくなったり物の使い方が分からなくなることです。

視野障害

物が二重に見える(複視)や左右どちらの目で見ても視野の左右どちらかが見えなくなる半盲という後遺症が残りやすい障害です。視野の4分の1が欠けるなど部分的に見えなくなる(視野欠損)が起こる場合もあります。

構音障害・失語症

大脳の言語中枢に障害を受けると失語症を起こします。また、障害を受けた場所によって運動性失語と感覚性失語の2つに分けられます。運動性失語は、思ったように話せなくなったり書けなくなったりします。感覚性失語は、的外れなことを言ったりします。このように構音障害・失語症が起こることで、他者とのコミュニケーションは取り難くなってしまいます。

排尿障害

尿意をコントロールする神経回路に障害を受けると色々な排尿障害が出現します。尿が出なくなったり、頻尿になったり、失禁するケースもあります。

感情障害などの精神症状

自発性や意欲が低下し一日中ボーッとするようになります。また、活動性や意欲の低下によるうつ病につながることも少なくありません。その他にも、感情障害を起こすことにより感情のコントロールが難しくなったり怒りやすくなるなど、精神状態が不安定になることもあります。
いずれも日常生活での支障に直結する症状です。残存した後遺症は、急に治癒するものではないため、リハビリテーションを行い症状の改善を図るとともに、残された機能で生活するための訓練を行います。

脳出血の後遺症改善の為のリハビリテーション

脳出血に対するリハビリテーションは、可能な限り早い段階から始められます。発症してから2週間程度の間は血圧の管理や、呼吸・循環の管理など全身状態に対する治療が優先されます。その間も、関節がかたくなるのを防ぐため、安静の範囲内でできるリハビリテーションを行います。
その後症状に応じて運動機能や嚥下・言語機能、高次脳機能障害に対するリハビリテーションが実施されます。発症から6カ月程度の間は機能の改善が見込まれる回復期と考えられ、重点的にリハビリテーションが行われます。
脳卒中の専門施設では、専門家による機能訓練や、薬剤を併用したリハビリテーション、ロボットを併用したリハビリテーションなど、最先端の治療を受けることができます。

脳卒中後の筋肉の硬直(痙縮)や、顔面・まぶたのけいれんには、ボトックスという筋肉を弛緩させる薬剤が保険適応となっています。
また、ロボットリハビリに使用されるHAL(CYBERDYNE社)という機械は、脳卒中の患者様に対する治験が終了し、今後保険適応が見込まれています。

発症後6カ月以降に行うリハビリは生活期リハビリテーションや維持期などと呼ばれ、回復期までに獲得した機能を維持し、残された機能を使って生活するための訓練が行われます。介護保険によるリハビリを受けることができますが、積極的にさらなる機能回復を目指す場合には、自費で保険外のリハビリを受けるという選択肢があります。

当クリニックでは脳出血の後遺症改善に対して、
下記の再生医療を受けていただけます。

脳梗塞・脊髄損傷クリニックは、厚生労働省に治療計画が受理された後、脳卒中再生医療を行っております。
脳卒中の後遺症改善に対して、厚生労働省認定の再生医療「脳卒中による自己骨髄由来間葉系幹細胞を用いた治療(計画番号:PB3210118)」を受けていただけます。

自己骨髄由来間葉系幹細胞を用いた「脳卒中治療」

貴宝院 永稔(きほういん ながとし)

ページの監修医師

貴宝院 永稔(きほういん ながとし)

医療法人慶春会 東京銀座福永クリニック 院長
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

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